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「モノを売るな、想いを売れ」

私がいままでに書いてきたPOPの枚数ってどのくらいだろう?と改めて振り返ってみると、概算ですが少なくとも5万枚は書いてきたのではないかと思います。まさに5万回のトライアンドエラー。成功することも失敗することも多々ありました。そんな中、自分なりに大切にしてきたポイントが3つあります。

 

① モノを売るな、想いを売れ

② お客様とのフラットな関係性

③ 真の顧客志向

 

これらはいつもセミナーなどで必ずお伝えしている内容ですが、こちらのコラムで簡易的ですがご紹介したいと思います。今回は、まずはひとつめ。①「モノを売るな、想いを売れ」について少し書いてみたいと思います。

 

以前、私があるお店で食品会社の営業マンであるAさんと商談をしていたときの話です。一通りの商品紹介を終え、最後にAさんがサンプルをバッグから取り出しながらおもむろに切り出しました。

 

「これ、なんですけどね。正直に言うとあまり売れていないんです・・・。大手スーパーの○○さんでも年間ほんの数ケースしか売れていなくて。でも美味しいので食べてみてください」。

 

その商品はマシュマロクリーム。当時はまだ新しすぎたのかもしれません。

 

「パンに付けて食べてください」と取りだされたまま試食。めちゃくちゃ美味しい。しかもパンにマシュマロって新しい。こんな食べ方あるんだ!と感動し、「めちゃくちゃ美味しいじゃないですか!」「うちの店でもらいますよ」と私は興奮気味に答えました。「えっ、本当ですか。ありがとうございます」とAさんは喜んでペンを取り注文票を用意しはじめました。

 

Aさん「どれくらいにしますか!」

私「日本にあるもの全部」

Aさん「えっ」

私「国内在庫全部です」

 

Aさんは「ありがとうございます」と言いながらも予想外の展開に戸惑いを見せながら注文票を記入しその場を去って行きました。

数日後、大型トラックが搬入口に現れました。次々と積み下ろされていく段ボール。瞬く間にバックヤードをマシュマロクリームが占拠してしまいました。その場にいた他のスタッフたちはあまりの物量に圧倒され「これどうするんですか?」と呆然と商品を見上げました。「全部店頭に出すよ」「はっ?」「大丈夫、売れるから」そんなやりとりをさらっと済ませ、あきらめに近い表情をうかべたスタッフたちとともにさっそく店頭出しを開始。積んでも、積んでも、終わりの見えないマシュマロクリームのバケツリレーが続き、みんなの体力の限界が近づいた頃、高さ数メートルにもわたるマシュマロクリームの巨大ひな壇が完成しました。

 

汗だくのスタッフたちがペットボトルをがぶ飲みしている傍らで、私はPOPをなぐり書き。「あまりにも美味すぎて国内在庫すべて買い占めました」「新たな発見!マシュマロをパンにつけて食べるとウマいってことが判明しました」と書いて売場の目立つ位置に設置しました。


お世辞にも凝った内容とは言い難いPOPでしたが、圧倒的な陳列を前にほとんどのお客様が立ち止まり、「はたしてどんな味だろう?こんなに推しているなら一個買ってみるか」という購買心理が次々と起こり、マシュマロクリームは売れに売れまくり、数千個あった在庫はなんと2週間で完売してしまいました。

 

大手スーパーでほぼ売れず、私が勤めていたお店ではバカ売れ。商品は同じものです。なぜこんなにも違う結果が生まれたのでしょうか。これには大きな差がありました。

 

大手スーパーは、「商品」を売ろうとしました。なので、その商品を欲しい人しか買いませんでした。

 

一方、我々は、「商品」+「想い」を売ろうとしました。すなわち、「商品」の後ろに隠れた「ストーリー」を売ったのです。そうすることで、お客様に「買う理由、買う言い訳」が増え、「商品」だけでなく、その「想い」「ストーリー」に興味を持った人も商品を買ってくれたわけです。

 

マシュマロクリームというほとんど見たことない商品を自ら欲している人は稀です。ですが、国内在庫を買い占めるほど美味かったという「想い」「ストーリー」に興味を持った人は数多く存在していたということを証明した事例だと言えます。

 

これが「モノを売るな、想いを売れ」の考え方です。

 

昨今、モノが売れない時代と言われたりすることがありますが、お客様はモノを買いたくないわけではなく、買う理由を見いだせない状態にあるのではないかと思うのです。「買う理由、買う言い訳」をわかりやすくプレゼンテーションしてあげれば、商品は飛ぶように売れていきます。そう考えたとき、まだまだ小売の世界にはデザインの余地が隠されているのではないかと思うのです。

 

「商品を置いておくので欲しければ買ってください」ではなく、商品を媒介にして「買うという行為にワクワクしてもらう」こと。これがモノを売ってお客様に喜んでもらう上位概念、真の意味での売る側と買う側のコミュニケーションなのではないかと考えます。

 

いかがでしたでしょうか。今回はPOPを書く上での3つのポイントのひとつ、「モノを売るな、想いを売れ」を簡単に紹介させていただきました。次回は、「お客様とのフラットな関係性」をお届けいたします。

 

(全P連 関戸)