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素敵な無駄遣いについて

 店舗とお客様の関係性

 

私は長期に渡って本を扱う店舗運営に携わってきました。20年くらい前から出版不況だと言われはじめ、この言葉とともに歩んできたと言っても過言ではありません。

 

ですが、その不況という言葉をあまり意識したことはありません。それはもしかしたら、「本を売る」というのが自分の仕事だと感じたことがないからかもしれません。

 

「本」をはじめとした商品はあくまでお客様とコミュニケーションするための媒介であって、自分の仕事は「お客様と一緒になって買い物を楽しむ」ことだと考えてきました。

 

仕事なのに、「楽しむ」??

 

従来の「お客様のニーズに対応して商品提供を行う」という考え方は、商品とお客様の関係性をサポートするだけで、店舗にいる人間は、なんとなく蚊帳の外な感じがするのです。「いろいろ商品を置きますので見てください!お客様が欲しいと思ったら買ってください!」自分がしたいことってこれだっけ??なんか違う。

 

「お客様と一緒になって買い物を楽しむ」というと、「これ意外と面白かったよ」「これって、こういうときに使うと最高」「これはマジで、マズイ!」「俺的に今年読んだマンガランキング1位」、書けばキリがないですが、商品にこのようなPOPをつけて、お客様と一緒になって買物を楽しみ盛り上がる。これなら店舗にいる人間は蚊帳の外じゃない。

 

正にお客様の横にいる友だちみたいな役割を担うことができていて、自分がやりたいことはこれだなと思いながらずっと仕事をしてきました。

 

POPはお客様とのコミュニケーションツールだ!

 

「本」の話に少し戻りますと、本には帯という商品の魅力を伝えるためのPOPのようなものが付いています。出版社の方には大変失礼な話かもしれませんが、以前、本についている帯はすべて捨てていました。なぜかというと、「お客様と一緒になって買物を楽しむ」ことが仕事だから。自分の言葉でコミュニケーションしないと一緒に盛り上がりにくかったのです。

 

たとえば、自分たちで作成したPOPに「これは読まないと絶対損する!」と書いたとしましょう。これは、そのまま口に出して、友だちに会話しても成り立ちます。人と人のコミュニケーションが成立しているということです。

 

一方、帯に書いてある「映画化決定 9月全国ロードショー」と口にしたら、友だちはポカンと口を開けることでしょう。「おかしくなっちゃったのか、こいつ」と心配されること確実です。これは人と人のコミュニケーションは成り立っていないということです。

 

人と人のコミュニケーションが成り立つと、買い物という行為が単純にモノを得るというだけのものではなく、共感や信頼という感情的な価値も付随されます。そして、その共感、信頼という感情が、「この店の人がこんなに言うなら買ってみようかな」という衝動を生み出してくれるのではないでしょうか。

 

買い物は、本来「楽しい体験」

 

世の中はどんどん便利になっていますが、買い物というものは、モノを得るだけという原始的なものではなく、本来「楽しい体験」であったはずです。

 

お店の人におすすめを教えてもらったり、友だちと一緒に盛り上がりながら買い物したり、目的もなくなんとなくフラフラして気になるモノを探したり…、モノを得るという欲望を満たすだけのためではなく、ココロを満たす感情的な体験でもあったと思うのです。

 

モノや情報があふれかえった今、店舗とお客様の共感ポイントをどう積み上げていくのかを考えていくことがいま求められていて、正に、お客様の横で同じ景色を見ている、お客様と情報をシェアして一緒に楽しむ、そんな感覚が必要な時代なのかもしれません。

 

客観的な目線で、自分がやっている仕事を改めて捉え直してみて、「これだったら、お客様も俺も、ハッピーな気分になれるな」と思えるものになっているか、確認してみるのもよいかもしれません。